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YMコラム
3月31日「幼い頭脳の追憶から」

 お酒を初めて飲んだのは小学校の1年生の時だった。わが家は両親と兄 貴が二人いて、母は明治の女らしく、男と一緒に食事をしない。冬ともな れば、炬燵の中に四方から身を入れて夕食をしているのは男4人であった。 私とすぐ上の兄とは9歳の違いがあるので、私が小学校に行き出した時に は、次兄は高校に入学して「正式に」お酒を飲み始めていた。だから私以 外の「男ども」は夕食のときにそれなりに飲んでいるので、どうも私だけ 仲間はずれの感じがある。隣のお猪口に当然のように手を伸ばすと、さす がに雰囲気的にはまずいので、母が向こうを向いて料理している隙を狙っ て、兄の腕をつついて、サッと一口だけ飲ませてもらうというこそこそし た飲み方であった。でもなぜか禁断の液体はなぜか最初からおいしかった。

 5年生最後の大みそかのこと。母に思い切って申し出た━━「来年は僕 も最高学年になるから、そろそろお酒を少しぐらいは飲んでもいいのでは ないか」と。「このバカ」という顔をして私の方を睨んだ母から、次の瞬 間、実に粋な提案がなされた━━「そんなに飲みたいなら、実力で飲みな さい。明日はわが家恒例のカルタ取りをやるから、バラで取った枚数だけ、 私が御猪口にお酌してやるよ」。毎年わが家の1月1日はカルタ取りで始ま った。だから幾分は私の知っている札もあったのだが、その母の挑戦を受 けて、私の血が騒いだ。その夜の私の記憶力は、生涯忘れえぬレベルのも のとなった。必死で上の句と下の句を繰り返しながら憶えた成果は、新年 のめでたいカルタ取りで遺憾なく発揮され、母と兄二人を相手に、私は29 枚もの札を獲得したのである。

 因みに父はあまりに実力がかけ離れているので、読み手になっていた。 さあ母にとっては困ったことになった。しかしこういう時に腹をくくるの に全く躊躇ないのが私の母だった。私の差し出す御猪口に、29杯のお酒を 惜しげもなくお酌をしてくれたものである。私がこんな思い出話を書いた のは、丸暗記をするのに何の苦労もいらない時代のことを、いま懐かしく 思い出すからであるが、別の面からちょっと思うところもあるからである。 世の中の教育というのは、この幼いころの子どもの無条件の記憶力をあま りに粗雑に扱っていないだろうか。

 ご存知の「ににんがし、にさんがろく、にしがはち、……」などはその 典型だが、私の場合、小学校の3年か4年のときにおぼえこまされた「ジン ム、スイゼイ、アンネイ、イトク、コウショウ、コウアン、……、ヒロヒ ト、アキヒト」と、この5年、6年にかけての100首の和歌とは、父の寝物 語に毎夜登場してきた世阿弥の数々の言葉や論語の素読の結果などと並ん で、生涯にわたる深い深い脳の中の溝となって残った。うまくこの時期の 頭脳の性格を活用すれば一生の宝物になりそうな事柄が、数多くの子ども たちの頭から永遠に遠ざけられているのではないかと、危惧することがよ くある。心ない大人どもの、きっちりと準備されたテキストとカリキュラ ムだけを頼りにしているために、深い意味は分からなくても、「匂い」や 「姿」や「リズム」の形で獲得できるはずの数々の「情緒」が幻になって いるのではないかとの強迫観念に囚われることがよくある。社会教育・家 庭教育なら大胆に試せるだろうから、これは一度じっくり考えてみたいも のである。一緒に議論をする同志を探しているのだが、なかなか。

(YM)

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