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YMコラム
8月11日「70年前の卓見と「はやぶさ」」

 久しぶりで丸の内の丸善へ行った。いろいろと目を付けていた本やら、 そこで出会って読みたいと思った本など、いっぱい買ったら、手提げが二 つ必要なほどになってしまった。レジで、一冊ずつバーコードを読む店員 さん。金額を示す表示がこちらを向いており、一冊ごとに金額が増えて行 く。最後の一冊を残して、実に1万8千なにがしになった。

 大体2万円くらいかなと見当を付けていたので、1万円札を2枚持って控 えていたのだが、最後の一冊のバーコードを読んだ途端、金額が跳ね上が った━━何だ、これは? 私が一瞬目を疑った数字は、“\ 20001”!

 困ったのは、それ以上お金をもっていなかったからではない。他にポケ ットに入っているのはすべて1万円札だったからである。1円はもとより、 10円も100円も1000円もない。私は思わずつぶやいた。「この1っていう数 字、何とかなりませんかねえ」

 結局、何ともならなかったのである。数分後、私は9999円のお釣りを押 し頂いて退散した。私がもし店員またはすぐ後ろに並んでいる客だったら、 きっと1円を自分のポケットから出していただろうと考えながら、会議室 へ急いだ。

 その20001円の本の中の一冊に、1933年に来日したドイツの建築家ブル ーノ・タウト(1880-1938)(図1)の言葉が紹介されている━「日本人の 目はいま極めて強く西方に向けられているがゆえに、それだけ強く、日本 人の自国に対する観念が、西洋の批判によって影響されている」と。

http://www.ku-ma.or.jp/ym/ym100911-01.jpg

 このタウトの意見もまた「外国人」のものであるが、身につまされる感 想である。このタウトの文章は、講談社学術文庫『ニッポン』(タウト著) の出ているので、思い出して書庫から古びた本を取り出してきた。あった。 タウトはその著書の中で、上記の文章につづいてこう述べている━「将来 の日本が全世界に対して持つであろう価値、すべてはこの一時の如何に帰 するのである」と。1933年意見である。

 そしてその「将来」がすでにやって来ているのではあるまいか。いま 「経済大国」と呼ばれる時代になって、なお私たちが「全世界に対する価 値」を自覚できていないとすれば、それこそが非常に大きな欠乏なのでは あるまいか。

 「はやぶさ」のことを考えた。「はやぶさ」についての評価は、「世界 一のことを日本人がやった。すごい」という評価や、「幾多の困難を乗り 越えてきた姿に感動した」という2点に集約されているが、後者はともか く、前者はまだ「追いつき追い越せ」時代の感覚である。「世界記録がま た一つ増えた」程度の認識しか持ちえないとすれば、「はやぶさ」が歴史 において果たすべき価値とは異質とさえ思える。ましてや、「もっとお金 があれば楽にできたろうに」と言うに至っては、何をかいわんやである。

 と思いながら読み進むと、タウトはこうも言っている━「日本が次第に 退屈に、無味乾燥になり始めるとしたら、それは全世界にとって恐るべき 損失であろう」と。現在、グローバリゼイションの名のもとで、また「国 際化」という掛け声の下で、日本の固有の価値を次から次へと投げ捨てて 行く現象が進行している。「グローバル・スタンダード」を求めることが 日本の色を消していくことと同じ意味ととられるようでは、タウトの懸念 は、約70年を経て確実に日本の病理現象として顕在化しつつあると言わざ るを得ない。

 世界にとって魅力のある国にするためにこそ、私たちの存在価値はある。 それは、まさに外国の意見とは別に、私たちの独自の生き方を探すことで ある。「はやぶさ」の人気に浮かれている場合ではない。「はやぶさ」が なしとげたことの意義を、本当に日本が世界に対して持つ価値という側面 から、そして日本を魅力的な国にしたいという長期の観点から、もう一度 見つめ直したいと苦闘している。

(YM)

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