「車窓からの月」

 私は山梨から首都圏へ通勤してます、朝早く夜遅い長距離通勤者の私がみつけた楽しみが
「車窓からの月」です。

 夜遅く、電車の窓側の席に座る。

 鏡の様に車内が明るく写った窓の向こうに、やさしく光る月が目に入る。

 静まり返った車内に月だけが妙にやさしく語りかけてくる。

 しばらくすると、それまで静かだった月が電車との位置関係で前や後ろ、そして高くなったり低くなったり、忙しく位置を変えてくる、時には南の空に止まってまんまる笑顔を見せたり・・・。と思うと突然!猛スピードで電車を追い掛けてくる。

 どんどんどんどん早くなり雲の間を走り抜け空をかけあがって急に止まる。

 心配して見つめると、「一緒に遊ぼうよ」とでも言っているかの様に電車の影に出たり入ったり、山を滑り台のように滑ってみせたり、お隣の木星と楽しそうにおどってみたり、雲のマントに隠れてみせたり、かと思えばトンネルの出口に突然現れて驚かしてきたり・・・。

 あきることなく見とれていると、気が付けば、見なれた景色の中に、私の降りる駅の明かりがすぐそこにあった。

宮川 広